ONE TEAM PROJECT

09 又吉 直樹

『 風 』

五輪前夜、東京の高揚感。

又吉直樹さんが感じる東京2020大会への高揚感を映像で表現していただきました。

又吉直樹さん書き起こし原稿

自分だけが、やたらと浮いているような気がして恥ずかしかった。
20年前、東京に来てすぐの頃、一人で過ごす夜にはおばけが出ないか心配だった。
目をつむったままでシャンプーしながら、「誰だ?」と一か八かで言ってみたけど返事は無かった。
アルバイトの面接に立て続けに落ちた。自分が不採用になったコンビニで日本語がままならない留学生が働きはじめた。言語という圧倒的なアドバンテージを持ってしても、彼の愛嬌には叶わなかったのだなと思うと少し泣きそうになった。そんな僕を彼の笑顔がなぐさめてくれた。
夕暮れどきの街を歩いていると、学生や会社員に見られているような後ろめたい気持ちになって。何者でも無い自分を持て余していて。そういえば、昨日から誰とも話していないことに気がついて、声が出るのか不安になって、「あ」と言ってみた。声はでた。よかった。

人目を避けて夜中に散歩をしていると、警察官に職務質問を受けた。人と話すのが久しぶりで、もう少し話していたいとさえ思った。
いつのまにか、東京で知り合いができた。友達もできた。
そこで、ふと気がついた。

「東京は優しいんじゃないか」
「こんな自分さえも受け入れてくれるなんて、優しいのかもしれない」

東京は自分勝手な僕の愚痴を黙って引き受けてくれる。たまに冷たくされるけど、それは自分のせいかもしれない。
時々、忘れられなくなるようなとても楽しい夜がある。
相変わらず、自分は何者でもない。自分は誰なのだろう。
自分も東京なのかもしれない。
みんなに、「違うよ」って言われるだろうけど、僕も東京かもしれない。
2020年の東京オリンピックは、2020年だけのものではない。2020年に至るまでの、いろんな誰かの面影がその夏に宿る。
「来週の試合会場って、2020年の東京オリンピックで使われた会場なんだって」という幼い声は、僕の家族のものかもしれない。

それを、年老いた僕は見に行くかもしれない。
2020年から、なにかがはじまるかもしれない。
まだ、空が明るくなるまえに目覚めた僕が近所を散歩している。新聞配達の人に「おじいさん、おはよう」と声を掛けられるかもしれない。
まだ、夜のままの若者が職務質問を受けているかもしれない。
その若者はもっと先の未来にもっと面白い東京を見ることができるかもしれない。

本人コメント

何年も前から楽しみにしていた東京オリンピックですが、この東京オリンピックから新たにまた何かが始まるようなポジティブなイメージを持って制作しました。

又吉 直樹 [またよし なおき]
芸人 / 作家

1980年大阪府寝屋川市生まれ。吉本興業所属のお笑い芸人。お笑いコンビ「ピース」として活動中。
現在、相方の綾部は渡米しアメリカでの芸能活動に挑戦中。
2015年に本格的な小説デビュー作『火花』で第153回芥川龍之介賞を受賞。
2019年10月には自身初の新聞連載作品で長編小説の『人間』を発売。
その他著書には『劇場』、『東京百景』などがある。

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